時計の電池交換/TRUSSARDI TS-2029

2015.12.12お預かりのTRUSSARDI TS-2029電池交換メンテナンスです。

「バネ棒を紛失したので同梱の革ベルトも取付」をご依頼です。

が!事はそう簡単では無さそう。ベゼルとケースの隙間の汚れ方が尋常では無い。
先ず、プッシュボタンは全く不動。固着と言うよりもケースと同化している感じ。
そして竜頭もまた同じですから厄介。

この状態は私に言わせると戸外で水没でもしていた感じ。
竜頭が不動ですしケースと同化(固着)状態。強引に回して固着に亀裂を入れないと始まらない電池交換メンテナンス。断るか悩みます。

裏蓋はスクリューバックで裏蓋記載。

スクリューバックの工具を掛ける凹み。ここがポイントで工具で回そうとしても不動。
これ「ついでにバンド交換も宜しく!」ってレベルでは無い(^^;)

先ずは「竜頭が使えるか?」。裏蓋が開いても竜頭が折れたら意味が無く
裏蓋開けの労力が無駄になる。そこで竜頭の固着に亀裂を入れます。
その程度では何とか回るのみで引き出せない。
次に竜頭とケースの隙間にドライバーを差し込み、ハンマーで叩いて亀裂を入れます。

この状態で想像するのは「内部はサビた茶色い粉で埋め尽くされ」。
分解修理など意味を成さない状態。ムーブメント交換しか手段がありませんが
「交換用、ムーブメントが存在する物か?」

普通の判断では断るしか無い状況。「不意の修理は5.000円までOK」に
なっているので進んで見る事に賭けます。

最悪、粉まみれならスクリューバック開けに掛かる膨大な時間は水の泡。

写真では開いておりますが「556を染みこませ一昼夜置きます」。
それでもビクともしない。更に染みこませて5時間待って
そこから真剣勝負!工具を破損しながら「1時間格闘」して開いたのが上の写真。

パッキンなどは溶けて無く、錆びた粉が固まってセメント状になっているか?

ところが溶けてはいない。ただ完全に押しつぶされて原型をとどめない。

またこの裏蓋中央部が微妙に凹んでいる。かなり分厚く重いステンレス無垢の
裏蓋ですが、これが変形する事などなるのか??

丸パッキンがペラペラにな。キツく閉めすぎで潰れております。

写真では分かりにくいですが工具を掛ける凹み。ここが潰れた箇所が多いですが、開けるための衝撃で、それだけの力が掛かった事になります。

これがムーブメントですが意外に綺麗。

少し湿気てはおりますが、裏蓋や竜頭。そしてプッシュボタンまで全ての隙間が
余りにも早いサビの浸食と凝固で完全防水状態になっていた感じです。

それが分かるのが、この竜頭の巻芯。濡れているのはオイルを染みこませたせいですが。
サビでボロボロになっていない。つまり竜頭部分の固着(凝固)の速度の速さを物語っている。

竜頭の裏側は洗浄でここまでは綺麗に。

竜頭パイプも、ここまでは綺麗になって。
(とは言っても竜頭パイプはサビをそぎ落としたのでザラザラですが)

これが取り出した文字盤&ムーブメント。さすがに文字盤上は錆びた粉でビッシリですが裏蓋を開けるときの衝撃によるものですから、吹き飛ばせるレベル。

この状態ですから内部は粉でビッシリ。

小さい針まで外れましたが、これは後で取り付けます。というのも文字盤の足が折れており文字盤が浮いて、針を下から押し上げた結果。
全ての針を外して文字盤を固定すれば良いのですが。
カレンダーがモデルですから接着する箇所が無いでしょう。
かといって交換パーツもありませんし予算の都合も。

このケースのサビも削り落としていきます。

それにしても竜頭パイプのサビは凄かった。削り落とせばパイプが崩壊するのでは?
そう思いましたが何とか無事に。

裏蓋の凹みも潰れてしまって、ささくれ立って皮膚を傷つけますから
ハンドグラインダーで切削。工具の爪が滑った跡も生々しいですが。

ここまで来たらプッシュボタンもと。外して見たらポキリ!

軸が残ってもサビで凝固しており防水機能まで果たしている。

残った軸は触れずボタン部分のサビを拭き取り。

外れた部分は接着剤で固定しておきましょう。
どのみちプッシュボタンは使い物にはなりませんし。

ケースの洗浄は終わってツヤが出ましたね。

それでも竜頭パイプ内部にはサビが残ります。これで良く無事に竜頭が抜けたものだと。

巻芯も洗浄して綺麗になりました。

綺麗になったケースにムーブメントを戻して電池格納部をチェックします。
全体的に粉が散って降り掛かっておりますが、チリ吹きで飛ばします。
下手に拭いたら大変なことに。

さぁ「電池を入れて動作確認」で問題無く動きます。
強制運針器も不要で快調に動き出したには驚き!!!

凄い格闘の跡。

パッキンは勿論交換。パッキンが二本になっておりますが。
これはムーブメントに乗せるように太い物を装着。
スペーサーが無いタイプで文字盤が浮いておりますから少しでも押さえつける工夫。

スクリューバックはスムーズには閉まりません。でも生活防水くらいは問題無いでしょう。

それに同梱の革ベルト。充て革付きなので裏蓋が直接皮膚に接触しませんから強固な防水機能は不要でしょう。ただ、竜頭に水滴が付いたら弱いですから注意が必要。

革ベルトを通してバネ棒で固定。

こうなります。

バンドを取り付け電池交換メンテナンス完了です。普通に竜頭を引いて針回し・カレンダー早送りも可能。ただしプッシュボタンは使えないのでストップウォッチは不可。
また衝撃が加わると小さい針が外れるでしょう。
ゼロ位置合わせが必要ですが、ピンセットで摘まんで合わせておりますが。
裏蓋を閉めただけで、若干ずれました。

「要・分解修理」の状態ですが分解不可のムーブメント。また交換用ムーブメントも流通しておらず。このまま使うのがベスト。
この時計一つに一日中、掛かっていた感じですが動いて一安心。
これで動かない場合は流石に費用を頂くのは気が引ける。
直ぐに止まるかもしれませんが、その時は動作品の同じムーブメントの時計から移植するしか無いでしょう。

一か八かの裏蓋開けでしたが結果オーライですね。

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